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お気に入りの音楽 千夜一夜       


  第51夜 プレリュード イン Eマイナー(Prelude in E minor)

【深夜にジャズを聴く?】
アスペクト・イン・ジャズ」というラジオ番組をご存知だろうか。ジャズ評論家油井正一氏が司会を務めるジャズを紹介する番組で当時大学生だった僕が雑誌か何かを見てその存在を知りぜひ聴いてみたいと思った番組でした。その頃はろくに勉強もせずにビッグ・バンド・ジャズ・サークルの練習に明け暮れる毎日です。ジャズに関連した事柄には興味深々なお年頃という感じだったかな?


【渋さの基準は個人差がある】
 この頃ジャズの音楽の周りにあるものに「渋さ」みたいなものを感じることが多かった気がします。渋いという感覚は人によって随分差があるのではないでしょうか。友達に「ねえねえ、これ渋いよね。」といっても、「そうかあ?」と返事が返ってくることが多い。普遍的な基準が定まっていないというかかなり個人差があるような気がします。これから書くことも皆さんに「そうかあ?」と言われてしまいそうですが、あえて書き綴りたいと思います。


【渋さも色々】
 「サックスの艶かしい演奏を聴く」、「モノトーンの陰影を強調したレコードジャケットをみる」というようなことはジャズの周辺で少なからず僕が渋さを感じる事柄です。大学の頃は特にそういう「渋さ」みたいなものを知らず知らずのうちに追い求めるようになっていた気がします。僕にとって「アスペクト・イン・ジャズ」はそういうものを大いに体感できそうな期待感を抱かせました。なぜかって、まず放送時間が深夜3時。よほどの物好きでなければ起きていない時間帯に設定して放送されるって興味をそそります。まるで、「ほんとにジャズが好きだったら聴きにおいで」と誘っているようで...じゃあ、行ってやろうじゃねえかと思わず身を乗り出してしまいそうになります。さらに極め付けがこの番組のテーマソングでこれが「プレリュード イン Eマイナー」なんですよ。ジェリー・マリガンがバリトン・サックスでテーマを吹いていますが、これが実に渋い、かっこいい。この曲のメロディは実に美しい。正に真夜中のラジオ番組の雰囲気にピッタリです。ちょっとクラシックの香りのするメロディだなと感じましたがそれもそのはず作曲したのはショパンなんだということを少しあとになって知りました。


【見事に七変化するコード進行】
 オリジナルのショパンのスコアはピアノソロの譜面で作られていますがこれもとても素敵なアレンジだと感じます。時間があったら練習してピアノで弾けるようになりたいなと思っていましたがなかなか実行に移せずにペンディングになっていました。ある時改めてこの曲を原曲のピアノ演奏で聴く機会に恵まれましたがその日以来胸キュンになってしまいました。そうなるともういけません。また、いつものようにピアノで実際に弾いてみたくなり譜面を仕事の帰りに買い求めいそいそと帰宅し早速弾いてみます。好都合なことにショパンにしてはやさしい譜面でわりと早く弾けるようになりました。「うーん、良い曲だぁ」と何回も弾いている内に気がつくと夜中の3時でした。ちょうど「アスペクト・イン・ジャズ」が始まる時間までピアノを弾き続けていました。次の日も熱はおさまらず弾いているとこの曲はアカペラでやったらいかすんじゃないかとの思いが頭をよぎりました。そうすると今度はコーラスのボイシングを考えはじめてまた3時です。笑)僕の音楽目標に1曲通してアカペラの曲を作るというのがあるのですがこの曲に出会ったおかげでようやく完成しました。よかったら聴いてください。


【マリガンはどうアレンジしようと思ったか】
 ところで、マリガンのほうのテイクですが、メロディはオリジナルの譜面を忠実に敢えてフェイクしないで吹いています。フェイクというのは演奏者が譜面通り演奏するのではなく元のフレーズを少し崩して演奏することをいいます。意識的に崩さずに演奏していると思われるのですがきっとマリガンが自分の曲としてこのクラシックの名曲を取り入れる際、色々悩んだ末いっさいフェイクしないことでショパンに敬意を表したのではないかななどと自分勝手に想像してしまいます。それと彼が選んだリズムは、ボサノバです。このリズムを選ぶ前に色々なリズムを試行錯誤したんじゃないかなと感じます。その結果一番合うリズムがボサノバだったんじゃないかなって....結果的にこの曲は色々なジャンルの要素が見事に融合し一種独特の雰囲気を持つ極上の音楽に仕上がっています。個人的には窓を開けて街の夜景を眺めながらウィスキーを片手に聴くことができたら最高です。一度やってみたいのですが、色々事情があって今はできそうにありません。こういうのって、「渋い」と思ってしまう。ジャズとは関係ないけど....


【似ているけど個性的な2曲】
 話は変わりますが、この曲に曲想がよく似た曲があります。「How insensitive」というボサノバの曲です。リズムが同じボサノバで曲想が似ているのでよけい混同してしまいます。「How insensitive」を作ったのはボサノバの王様、アントニオ・カルロス・ジョビンです。よく聴くとこちらはボサノバのリズムから生まれたメロディだなと感じられるようになりました。だから、クラシックの匂いはしません。ボサノバの香りが似合っているメロディだなと感じます。時代を超え、国境を越えまったく違う環境で生まれた2つの類似したメロディ。そういうものにちょっとファンタスティックな気持ちを抱くのは僕だけかな。この2曲は似ていてもよく聴くとそれぞれの個性があり僕にとっては両方とも大事なお気に入りの曲です。今日はこれでお終い。
 では、また明晩お会いしましょう。


[関連情報]
作曲:ショパン


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