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お気に入りの音楽 千夜一夜       


  第50夜 ボディ・アンド・ソウル(Body and soul)

【むせび泣くサックスが似合う】
美しいメロディを持つジャズ・バラードですが、途中でキーがCからD♭、Bに転調するピアノ泣かせの曲でもあり演奏する側にとってはうまく弾こうとすると敷居の高い曲でもあります。この曲にベストフィットする楽器を選ぶとすれば何が良いでしょうか?僕なら迷わずサックスを選びます。できればコールマン・ホーキンスみたいに吹いてもらうと最高です。


【息の根も重要な音の1つ】
 サックスという楽器は他の楽器にはない特徴を備えた楽器だなと思います。むせび泣くとか、ため息が出るような艶かしさで連想する楽器はいつも「サックス」が思い浮かびます。これは、特にピアノとかでは表現することは非常に難しいと思うのです。別に楽器の優劣を論じるつもりではなくピアノは他にいいところは沢山あるので楽器によって表現の得手不得手があることを言いたいわけです。サックスがなぜこういう表現が得意か考えてみた場合思い当たることがあります。それは、息の音。元々サックスの音色は色っぽいと思うのですがここに楽器から漏れる息の音が加わると色っぽさの表現が倍増する気がします。こういう奏法はジャズのミュージシャンが編み出した必殺技。ともすればノイズの部類で忌み嫌われそうな息の音をこういう表現方法として積極的に演奏に取り込もうとしたジャズ・ミュージシャンの頭の柔らかさには感心してしまいます。ということで、サックスの演奏にはとても興味があります。間近で見る機会があったら多分かぶりつきで食い入るように見るに違いありません。


【新しい時代の楽器】
 ところで、サックスはバイオリンやトランペットとかと比較すると新しい楽器の部類に属します。楽器の歴史が浅いからというわけではないのですが目一杯吹く時のサックスの音色ってあまり好きではありません。ビッグ・バンドのサックス・アンサンブルはどうかって?管のアンサンブルで一番好きなのは何といってもトロンボーン・アンサンブルです。トロンボーンの重厚なアンサンブルを聴くとそれはもううっとりしてしまいます。次に好きなのは華やかなトランペットのアンサンブル。高音が耳にガンと来ますが心地よい部類です。最後がサックス・アンサンブル。個人的には金属的な音が耳障りという印象があり何となくですが違和感を感じてしまうのです。サックス好きの人、ごめんなさい。でも、息の音と共に囁くように繰り出されるふんわりとしたサックスの音はとても好きです。


【ボーカリーズのボディ・アンド・ソウル】
 さて、この曲はサックスが似合う以外にもう1つ面白い顔を持っています。それが、ボーカリーズで歌われる曲であること。ボーカリーズは耳慣れない言葉ですがエディ・ジェファーソンというボーカリストが始めたと言われています。「過去のジャズプレイヤーが残した名演奏のフレーズに歌詞を割り付けて歌う」ことを指します。「ボディ・アンド・ソウル」は、ジョン・ヘンドリクスという人が作ったボーカリーズ用の歌詞があり、僕の大好きなマンハッタン・トランスファがただ歌うだけではなくコーラスをつけて歌っています。ジョン・ヘンドリクスが選んだ名演奏はコールマン・ホーキンスが奏でたサックスのフレーズで、実際に歌うとなるとかなり難しそうなのにそれをコーラスで演ってしまうのですから最初聴いた時はちょっと度肝を抜かれました。その時はオリジナルのホーキンスの演奏は聴いたことがなく「何じゃ、この変なボディ・アンド・ソウルは?」と思いもしました。が、段々聴いている内によくこんなメロディをコーラスにできるなと感心し聴き惚れるようになっていきました。


【マントラはボーカリーズ好き?】
 マンハッタン・トランスファはボーカリーズは好きらしく(恐らくジャニス・シーゲルの趣味ではないかと想像するのですが違うかな?)他にも色々レパートリーを持っています。ベイシー楽団の軽快な4ビート「コーナー・ポケット」、或いはウェザー・リポートの「バードランド」も壮絶なボーカリーズのレパートリーです。これだけでも圧巻なのですが、取って置きのマントラのボーカリーズ・レパートリーがあります。それが「フォー・ブラザーズ」。ウッディ・ハーマン楽団のサックスセクションのことを指すこの曲はアップ・テンポのサックス吹きまくりという感じの4ビートの曲です。サックスで奏でるにしてもテクニシャン揃いのフォー・ブラザーズだからこそできる難曲をマントラはボーカリーズ(勿論、コーラス付)で完璧に再現しています。ここまで完璧にコーラス・ワークをこなせるようになるにはきっと血の出るような努力をしたんだろうなと色々想像してしまいます。で、テクニックが凄いだけではそれだけでその後聴かなくなってしまうものですが、何故かこれらのボーカリーズ・ナンバーはまた聴きたいと思える不思議な魅力を持っています。「フォー・ブラザーズ」、「ボディ・アンド・ソウル」も一体何度聴いたことでしょう。これだけ惹きつけられる曲に出会うとできないことはわかっているのですが、「死ぬまでに一度でいいから真似したい。」と思う気持ちは捨てられず今もそう思っています。でも、地道に努力すればひょっとしたらできるようになる期待を持つこともあります。「いつか実現してやる」という夢は持ち続けていきたいなと思っています。今日はこれでお終い。
 では、また明晩お会いしましょう。


[関連情報]
作詞:Robert Sour,Edward Heyman,Frank Eyton
作曲:John W.Green


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