【尊敬するアーティスト】
スティービー・ワンダー(Stevie Wonder)、僕が尊敬するアーティストの一人です。「レイトリー(lately)」は、その中でも特に思い入れが強い曲で、数少ない弾き語りができる曲です。最初、聴いたときは実はあまりピンと来ませんでした。この曲は、私にとって聴いて良いと思うよりは、歌ってみて初めて良いと感じられた曲です。誰かにこの曲があってるヨみたいなこといわれてそれじゃあ演ってみるか、てな感じで弾き語りの練習をはじめた記憶があります。
【特別に音域が広い曲】
第7夜でお話ししましたが、この曲もバラードですね。この曲はだんだん雰囲気が高まっていき後半部分になるとスティービー・ワンダーはこれでもかというぐらい絶唱します。歌い始めは、ちょっと音程が低いので弾き語りをするときは歌いにくいなあといつも思います。でも、しょうがないかもしれません。なぜなら曲の後半で転調して高い声を出すためにはこれぐらい低い音で始めないと後半の声域が高くなりすぎて歌が破綻してしまうからです。曲は、Aのキーで始まります。
【歌うとエネルギーを使い果たす】
Aで始まるというのは、ラから始まるドレミファ..ようするにイ長調ということです。(長調、短調については第12話を参照)後半はだんだんボルテージが上がっていき、転調する頃から最高潮に達します。正に歌い上げる!という感じです。この曲は1日1回しか歌えないです。それくらいエネルギーを使って青筋立てて歌わないと歌い切れないという感じでしょうか。この曲はステージの最後の曲になります。続けて歌うと次の曲は多分ヘロヘロになってまともに歌えません。笑)
【反則と言っても良い転調】
ところで、「スティービー・ワンダーはすげえ」と思うのは、普通曲を盛り上げる目的で転調するのは半音上げるのが良くあるパターンですがなんとこの曲はAから一気にDに転調します。ちょっと思いつかないですよねえ?例えば曲のキーを半音上げて歌ってみると元のキーで歌うのとまるで違います。たった半音と思うかも知れませんが実際歌ってみるとまったく違う世界で歌っているそんな感覚を覚えます。もしカラオケ・ボックスとか行く機会があったら試してみるといいです。僕が言っていることがよく判っていただけると思います。半音上げるだけでもこの調子です。4音も上げるというのはちょっと常軌を逸しています。4音というと男性のキーを女性のキーに変えるぐらいの上がり方です。歌える音域が広いからできる芸当なんだろうなあ、とつくづく感心してしまいます。もう1つ感心するのが終わりのコード。Dに転調したんだから普通はDで終わりますが、スティービー・ワンダーは違うんだなあ。何で終わると思いますか?答えはB!スティービ・ワンダーはこういう風に「ええっ、こんなの反則」と思えるほど凝ったコードを使って曲を作ります。スティービーの曲をコピーするのは大変。だって、通常ありそうなコード進行が当てはまらないから....(コード、コード進行は第1夜を参照)
が、そこが魅力でもあるんですね。難しいコードが出てくると維持でもコピーしてやると頑張ってしまいます。結局そういうことを楽しんでるともいえるかもしれません。
【天真爛漫な彼女は好きだが...】
ところで、「lately」の曲は当然のこと、歌詞も気に入っています。これは少しばかり気の弱いというか繊細な男の気持ちを歌った内容です。このヤサ男には彼女がいます。彼女は、とても活発で天真爛漫なタイプの女の子。「最近(lately)君のことが気になりだしてる。」という出だしで始まるのですが、彼女は香水を浴びるほど着けて一人で遊びに出掛けたり、寝言で自分じゃない男の名前を呟いたりします。ちょっと、あんまりですよね。天真爛漫も度を過ぎてはぶち壊しです。
【けんかしない内気な彼】
普通だったら大抵は「浮気してるだろう!」の一言でけんかが始まるのでしょうが、繊細な彼はそんなことは言いません。そういう心の揺れ動く描写を歌にすることで「lately」のような名曲が生まるのであってけんかしちゃってせいせいしたら名曲は生まれなくなってしまうかも。ちょっと、めめしいかなとも思いますが、通念的な男は逞しく、女は可憐に...とは少し趣きの異なるものが感じられて銀座パナシェ(私が唯一出演するお店の名前)でこの曲を歌うときはそういう情景を浮かべながら演奏することにしています。
今夜は、これくらいでおやすみなさい。また、明晩お会いしましょう。
[関連情報]
作曲:Stevie Wonder
作詩:Stevie Wonder
アルバム:Hotter Than July Sep.1980 TAMLA373