【陽気な曲】
「I Got Rhythm」。日本語に訳すと「リズムを刻もうぜ」ってな意味になるのでしょうか。リズムとは特別な意味はなく音楽のリズムそのもののことです。よっぽど音楽のことで楽しい経験をしたのでしょうか。そんな体験からこの曲が生まれたのでは?と思い起こさせる感じがします。「音楽が楽しくてしょうがない」って気分が伝わってきます。底抜けに陽気な曲ですね。
【ピアノで弾いても様にならない曲】
この曲は1001(ジャズのスタンダード譜面集の1つ)とかにある譜面をそのままピアノで弾いてみても様にならず何でかな?と悩む曲でもあります。随分前から悩んでいますが今もうまく弾けないでしょう。演奏スタイルのボキャブラリが増えればもうちょっとましな演奏が出来るのかもしれませんが「こうすりゃいい」とか全然思い浮かびません。
【好きになったきっかけ】
だから実は最初は何となく敬遠していた曲だったんですが、あるピアニストの演奏を聴いて一転して大好きな曲になりました。そのピアニストとはハンプトン・ホースです。彼の弾く「I Got Rhythm」には初めて聴いた時衝撃に近いものを感じました。それというのもその時期はジャズをかじり始めた時でジャズのフレーズにイマイチ馴染めないでいた時だったので尚更です。ジャズ・ミュージシャンは味を出すためにわざと遅乗りをしたりするのですがそんな演奏を聴いたりするのは初めてです。今まで聴いてきたポップス、ロック、クラシックにはなかった感覚なので少々面食らいました。その頃リズムというのはメトロームのように正確に弾けるのがいいはずだと単純に思い込んでいたのでどうしても違和感を感じざるを得ませんでした。それとフレーズの奇妙さ。フラット5とかを使うフレーズを聴くと「なんじゃこれは?」と思ってしまいとても「良いなあ」と感じることは出来ませんでした。ジャズがあまり市民権を得られないのはこの辺の独特の感覚が災いしているような気がします。良いと思うようになるのに少し時間が必要かもしれません。僕も随分時間がかかりましたね。ところが、ハンプトン・ホースのきらびやかでファンキーなわかり易いフレーズはそんなもやもやした僕の心の雲をさっと吹き飛ばす爽快な音楽として僕の耳に飛び込んできました。
【ハンプトン・ホースのように弾いてみたい】
悩んでいた僕にとってこれに飛びつかない手はありません。「今日からオレはハンプトン・ホースになればいいんだ。」と真剣に思ったくらいです。その日からこの「I got rhythm」が入っているレコードを買い求め何遍もレコードを繰り返し聴きフレーズをコピーして弾けるように練習する毎日が始まりました。でもね、ちょっと相手が悪かったかも知れません。ちょっとジャズをかじったぐらいの人がそうやすやすとハンプトン・ホースのフレーズを会得できるはずもありません。ハンプトン・ホースの「I Got Rhythm」は速度が300に近い超高速のテンポで演奏されます。それもバップのフレーズを弾きまくります。もう圧巻という感じ。自分のフレーズでもこのテンポでは満足に弾けないのにハンプトン・ホースのフレーズをマスターするなど一生かかっても実現できないぐらい高い目標なのではと感じ始めました。少しずつ弾ければ弾けるほどそう感じるのですからある意味たちが悪い。実際今思うと自分のしていることはかなり無謀で身の程知らずなことをしていたなあとしみじみ思います。
【無駄な努力などない】
結局、ハンプトン・ホースにはなれず、(笑)諦めてしまいました。今思えばオリジナルのテンポでなく自分が少し練習すれば出来そうなもっとゆっくりしたテンポに落としてやってみるとか色々工夫すれば実現できたかもしれませんが、そこは若気のいたり。そっくりに演奏するというのは強い憧れがありそこから脱却することができませんでした。最終的に夢は叶いませんでしたがいいのです。どこかにその努力は別な形で刻まれたと思うので無駄とは感じません。
【聴く密度の違い】
ところで、このようにある特定の人のピアノの演奏をコピーしたりして真似する努力をするとただレコードを聴いていた時の聴き方とは違った聴き方になります。少し弾く側の立場に近い聴き方で聴けるようになるというか実際弾いている時の気持ちを部分的に実感できる気がします。普通実際に演奏する時には自分の実力を発揮できるように少しセーブして余裕を持って演奏します。自分の実力目一杯で演奏すると演奏が破綻する可能性があるし余裕がないので心のない荒い演奏になってしまうものです。必要以上に力が入ってしまうので聴く側にそう伝わるのではないでしょうか。でもハンプトン・ホースの演奏はそんなこと関係ないという感じでバリバリ突き進んでいく感じ。なのに妙に納得させられる素晴らしい演奏です。「I got rhythm」を聴いているとテーマのメロディの崩し方が実に絶妙ですこの辺が即興でできてしまいイモにならないのですから世界が違うなとか思ってしまいます。ジャズの表現としては適切でないかもしれませんが実に「格好良い」ですね。僕にとって「I got rhythm」は今だこういう風に「弾けばいいじゃん」とスタイルが確立できない難曲です。いつしか僕なりのスタイルが確立できる日が来るのを夢見て話を終わります。では、また明晩お会いしましょう。
[関連情報]
作詩:アイラ・ガーシュイン
作曲:ジョージ・ガーシュイン