【ドナルド・フェイゲン】
ドナルド・フェンゲンが作ったスロー・ブギ風の曲。ドナルド・フェイゲンはスティーリー・ダンというグループのメンバーですがこの曲はグループの活動を休止していた時期に作った「ナイト・フライ」というアルバムの中に含まれています。とてもユニークな曲なんですよ。コーラスが好きな人は特に楽しめるかも。
【コダワリだらけ】
この曲はドナルド・フェイゲンのコダワリが至るところに感じられる僕にとってはとても聴き甲斐のある曲です。でもかなりマニアックな曲なので万人向きとは言えないかも知れません。「何だ変な曲じゃないか」と思われる方もいらっしゃるかも。ですが、僕は大好き。一時はまってかなり何回も聴きましたが飽きることがありませんでした。コダワリが感じられると書きましたが僕が感じたフェイゲンのコダワリは具体的に言うと3つあります。
【コーラスのコダワリ】
1つ目のコダワリはコーラスです。普通耳にするコーラスというと2声、3声ぐらいが一般的です。そういうコーラスに耳慣れている耳にこの曲が最初に飛び込んで来た時妙に分厚い厚切りトーストみたいなコーラスの響きがえらく新鮮に聴こえ度肝を抜かれました。別にこんなに分厚くする必然性はない気がしないでもないですが、こういうコダワリは何か好き。多分5声か6声ぐらいでハモっていると思われますがこれ多分フェイゲンの一人多重コーラスだと思います。コーラスで最高にハモるには自分の声を重ねるのが一番いいはずだといったかどうかはわかりませんが多重録音が一番良い結果が出ると判断して取り組んだのではないかと想像します。コーラスは一糸乱れぬ完璧な出来です。え、スタジオで多重録音するのだから何度でもやり直しできるからそんなの当たり前だって?いえいえそう単純なものではないと思いますよ。僕も一人バンドで4声の多重コーラスを中心にしたオリジナル・ソングを作っていますが何回でもやり直しができるにもかかわらずなかなか納得できるテイクは出来そうで出来ません。判りやすい単純なメロディならまだしもコーラスに適しているとはとても思えないマニアックなこの曲のメロディを5、6声分一人で完璧な音程で歌うって相当骨が折れると思います。はっきりいうとこの曲のメロディは相当変です。何か次にはこんなメロディが来るだろうという期待を次々と裏切られるメロディといえばよいのでしょうか。かなりユニークでとっつきにくいのですがフェイゲンのセンスのよさみたいなものも感じられ慣れてくると病み付きになります。さらにコーラスのボイシングもかなり革新的です。平気でわざと半音でぶつけたボイシングが散見されます。ちゃんと歌おうとするとかなりつらいのではないでしょうか。中間のパートの音律は多分メロディからかけ離れたとんでもなく判りにくいものだと想像されます。完成したコーラスを聴くと随分頑張って作っているなと感じます。
【ミュージシャンも凄い】
さて次に2つ目のコダワリは参加しているミュージシャン。当時一流と名の付くミュージシャンの名前がキラ星の如くアルバムのジャケットにクレジットされています。フェンゲンの風貌からするとあまり人付き合いはよさそうに思えません。フェイゲンの音楽の才能に引かれてミュージシャンが集まったのでしょうか?え、一流ミュージシャンが集まったからといって好い音楽が出来上がるとは限らないって。それはそうかも知れません。ミュージシャンの名前に惹かれて買ったアルバムの出来がイマイチだったという経験は僕もありましたね。が、このアルバムに関しては各ミュージシャンの魅力がうまく引き出され素晴らしい出来のアルバムに仕上がっているなあと僕は感じますよ。特にこの曲のイントロはピアノのみで始まりますが、伝統的な要素とラジカルな要素が適度に組み合わさったなかなか聴き応えのあるイントロに仕上がっています。このイントロはとても好きでコピーして弾いてみたりしましたがちょっとこのアルバムに近づけた気がして嬉しかったなあ。
【音質へのコダワリ】
3つ目のコダワリは僕自身が感じた訳ではないのでちょっと受け売り的な話。この「ナイト・フライ」というアルバムの音質は優秀らしく特に1曲目の「I.G.Y.」という曲がプロのサウンド・エンジニアがサウンド・チェックをするのに最適な音源らしいのです。こういうことから想像するにこのアルバムを完成させる段階でこれでもかというくらい最終テイクを聴きまくりあらゆるエフェクタを駆使して微調整をしまくるフェイゲンの姿が想像されます。僕自身はあまりステレオにお金をかけていないのでその辺は相当疎いです。「ナイト・フライ」もごく普通のステレオで聴いていたので特別音がいいなあと感じたことはありませんでした。サウンド・チェックに最適云々の話は一人バンドをやり始めてMIXを自分で作るようになりインターネットで偶然知りました。音楽的な側面以外に「ナイト・フライ」が有名だとは知らずファンとしては何となく誇らしいような気持ちになりました。
【周りのミュージシャンからは大絶賛】
ナイト・フライが流行ってた頃、誰ともなく「ナイト・フライ聞いた?」、「聞いた聞いた、ヤバいよね。」という会話が必ず交わされるようになりました。ヤバいはミュージシャンの最大賛辞の言葉です。挨拶する代りにそんな会話が交わされることが多かった気がします。
【質の高井作品】
というようにコダワリを感じさせるアルバム「ナイト・フライ」ですが、フェイゲン自身もこれだけクオリティの高い評価を受けるアルバムを作り上げることが出来て満足したのではないかなと想像されますがどうだったんでしょうね。コダワればいいものが作れるとは限りませんがコダワらなければ良いものを作れる確率は下がってしまうのも事実です。僕も良い意味でこだわってクオリティの高い音楽を作りたいなとは思いますが結果的に適当なところでリリースしてしまっている気がします。適当なところでリリースしそうになったら「ナイト・フライ」を聴くといいかもしれません、これぐらいこだわることを思い出すために。笑)
今日はこれでお終い。
では、また明晩お会いしましょう。
[関連情報]
作詩:ドナルド・フェイゲン
作曲:ドナルド・フェイゲン