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お気に入りの音楽 千夜一夜       


  第66夜 コーナー・ポケット(Corner pocket)

【名曲中の名曲】
 先に紹介した「シャイニー・ストッキング」と同じカウント・ベイシー楽団の名曲です。ちょっと早めに軽快な4ビートで演奏されるこの曲を聴くとビッグ・バンドの形態の音楽の良さというものが余すところなく伝わってくる気がします。ベイシーの演奏の中でも名曲中の名曲といっても過言ではないと思います。もちろん僕自身も大好きです。最初、ベイシーのどこが頭かわからなくなる変則リズムのイントロからこの曲は始まります。大学のビッグ・バンド・サークルでもこの曲をレパートリーにしていてビッグ・バンド用のちゃんとした譜面がありました。ピアノのパート譜をみるとイントロのコピーが載っています。早速弾いてみました。すぐには弾けなかったですが何回も弾いてみると段々弾けるようになってきてちょっとベイシーになった気分が味わえました。


【鳥肌が立つメロディ】
 イントロが終わるとスウィング感溢れるリズムセクションに乗って軽快なユニゾンで奏でられるテーマが登場します。実に素晴らしいメロディです。僕はいつもこの部分を聴くと鳥肌が立ってしまいます。このくらいのテンポの4ビートを聴くと正にゴキゲンな気分になり踊り出したくなってしまいます。元気がない時は気分が晴れます。元気がない時は貴方も「コーナー・ポケット」を聴いてみたら元気がでるかもしれませんよ。ベイシー楽団はスウィング時代に乱立したビッグ・バンド楽団の中でもリズム・セクションが強力なのが特徴と言われています。まずはピアノのカウント・ベイシーです。オスカー・ピーターソンなどに比べればテクニックの差は否めませんがベイシーのピアノは彼しか弾くことのできない独特のリズム感があります。シングル・トーンで奏でるフレーズはユニークで何となくユーモアを感じさせる独特のスタイルでなかなか味があります。ブラス・アンサンブルの合間に絶妙なタイミングで入るコードのバッキングなどとても魅力を感じてしまいます。もう一人忘れてはならないのがギターのフレディ・グリーンです。この人の刻む4ビートは天下一品です。いぶし銀のリズム・マンと呼ぶに相応しい。


【4ビートのギターのキザミは偉大な発明】
 ん、スウィング時代のギターなんてただ4つコードを刻んでいるだけだろうとバカにした貴方。侮ってはいけません。この時代のギタープレーヤーは殆どソロをとることはなく淡々とリズムを刻むのが仕事という感じでしたがギターの4ビートの刻みはビッグ・バンドのサウンドに必要不可欠と思うのは僕だけでしょうか?ビッグ・バンドの演奏からギターを抜いてしまったら半分ぐらい魅力が薄れてしまうというっても言い過ぎではない気がします。ギターの4ビートの刻みはスウィング時代のサウンドの発明の1つと呼んでもいいのではないかなと思うぐらいインパクトを感じるサウンドです。地味ですけどね。僕のオリジナル・ソングで4ビートの曲を作る時はギターの刻みは必需品です。必ず入れてしまいます。ところでこの曲を誰が作ったと思いますか?答えはフレーディー・グリーンです。良い曲を作るよねえ~。惚れ惚れしてしまいます。僕も最初まさかフレディー・グリーンが作ったとは知らず、それを知った後はギターの刻みが一段と光って聴こえたっけ。


【生で聴くと真価がわかる】
 僕がこの曲を聴いて鳥肌が立つと言いましたがもう1箇所鳥肌が立つ部分があります。普通ジャズの曲はテーマがありそのコード進行を何回も繰り返してアドリブとかを演奏するのがどちらかというとノーマルなスタイルです。ところがビッグ・バンドが盛んだったスィングの時代の曲の構成はもう少しバラエティに富んでいてコーラスを何回も繰り返すのではなく、新しいメロディがどんどん出てくるゴージャスなパターンが多くこの曲も例外ではありません。最初のテーマの後はサックス、トランペットでアドリブを経て第2のテーマに突入します。この部分はサックス、トロンボーン、トランペットのホーン・セクション全員で華やかに演奏されますが、ここで2回目の鳥肌が立ってしまいます。これ生で聴いたらほんとに凄いですよ。僕が学生の頃所属していたビッグ・バンドは割と有名な楽団だったので新入生で入って初めて聴いたダンス・パーティでの演奏は忘れられません。「コーナー・ポケット」も演奏されましたがかっこよかったなあ。


【名曲なのに忘れ去られ...】
 こんな名曲なのに時が経ちモダン・ジャズの時代とかには殆どミュージシャンには取り上げられることがありませんでした。やはり、ビッグ・バンドで演奏するのに最適な曲なのかもしれません。普通メロディの良い曲は後世のミュージシャンが取り上げて演奏されジャズ・スタンダード・ナンバーとして定着するものですが...しかし、長い不遇の時代を経てこの曲も蘇る機会に恵まれます。とうとうこの曲を取り上げるミュージシャンが現れました。そのミュージシャンが「マンハッタン・トランスファ」でした。カウント・ベイシー楽団の演奏をコーラスでできるだけ忠実に再現しようというコンセプトでアレンジがなされており最初のベイシーのピアノのイントロもそのままそっくりに演奏されます。まあ、ベイシー節にはなってませんがそれは致し方ないでしょう。凄いのはテーマはモチロン、各アドリブ奏者が繰り広げるフレーズも忠実にコピーして歌うその徹底振りには感心してしまいます。しかも歌詞付きです。そうやってこの曲が再び世の中に登場したのはこの曲のファンである僕としては物凄く嬉しかったなあ。


【ビッグ・バンドは運営が大変?】
 ところでベイシー楽団のようなビッグ・バンドは日本では歌謡曲の伴奏をするバンドという位置付けで沢山のバンドが活躍していました。僕の場合、ベイシー楽団は大学に入ってから知りました。片や歌謡曲のバックで演奏するビッグ・バンドの演奏は小さい頃から聴いていた訳ですから時代的には順番を逆に聴いたことになります。最近、歌番組もあまり見ることはありませんが、日本で活躍するビッグ・バンドも数が減ってしまった気がします。人数が多いので運営は大変そうですが、何か寂しい気がします。小さい頃からビッグ・バンドの華やかな演奏は好きでした。そういう小さい頃の思い出があったので大学のサークルはビッグ・バンドサークルを選んだのかもしれません。ところでビッグ・バンドは大人数です。僕の所属していたサークルのビッグ・バンドの編成は17人でした。これだけの人数で奏でられる音楽の音の数は膨大な量です。色んな聴き方をすれば同じ演奏でも新しい発見ができる気がします。


【繰り返し聴いても飽きない聴き方】
 ところで僕は気に入った音楽は繰り返し聴きます。で、飽きない聴き方を1つ披露しましょう。僕はあまり本格的な再生装置は持っていません。ミニ・コンポというのでしょうか。そんなんでいつも聴いています。最近の機種はイコライザ機能が付いています。クラシック、ジャズなどボタンを押すと音楽ジャンルに相応しい雰囲気が出るように調整できる仕組みになっています。いつもは、イコライザをかけずに聴くことが多いのですがたまにわざとイコライザをかけて聴いてみるのが僕流の飽きない聴き方です。そうすると今まで聴こえてなかった音が聴こえたりして新しい音の発見があります。特にビッグ・バンドの演奏はいろいろな音が混じっているのでそういう傾向が強いです。貴方も試してみたら新しい音の発見ができるかもしれませんよ。

今日はこれでお終い。
 では、また明晩お会いしましょう。


[関連情報]
作曲:フレディ・グリーン


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