【気に入って聴いているうちに気がついた】
この曲、題名は英語ですがJ-POPなんです。広瀬香美さんってご存知でしょうか。彼女が作ったクリスマスソングです。この曲は何か好き。メロディの良さが彼女の歌のうまさをよけい引き立てている感じがします。聴いていると何かジンときちゃいますね。この曲は好きな曲なので当然何回も聴いた訳ですが聴いているうちにあることに気がつきました。
【譜面通り歌っても面白くない曲】
この曲を歌う時はちょっとしたコツがいります。譜面どおり歌っても多分うまくいかない思います。あっさりし過ぎた感じになって面白くもなんともありません。なぜかというと譜面には書かれていない独特の歌い方を必要とするからです。わざと「遅乗り」して歌わないと様にならない曲なんです。
【独特な歌い方】
遅乗りは独特の歌い方の1つ。独特の歌い方というと例えば演歌の「コブシ」が思い浮かびます。演歌の譜面をみてもコブシの細かい節回しまでは書かれていないと思います。演歌の「コブシ」はある時はエグいと感じるほど強く強調されて歌われるのである意味存在感があります。ところで「コブシ」というか譜面に書かれていない歌の歌い方というのは何も演歌の専売特許ではありません。ジャズでもポップスでもその曲の雰囲気にあった「コブシ」が存在します。「コブシ」というとちょっと語弊があるので「節回し」といえばよいでしょうか。それでこの「ディア・アゲイン」で使われている「節回し」というのがこれから説明する「遅乗り」です。
【ジャズに共通する乗り】
遅乗りは書かれている譜面を八分音符の3連の1拍分ぐらいをわざと遅らせて歌う歌い方です。このわざと遅らせる歌い方というのは彼女が最初に試みた訳ではなく昔から行われています。歌ではありませんが極端な例でいえばジャズ・ピアニストのエロール・ガーナーが演奏した「バック・ビハインド奏法」というのがあります。これは見事に意識的にフレーズを遅らせて弾くのですが遅らせる程度が半端じゃありません。八分音符の3連1つ分はゆうに超えています。これをピアノ独特の奏法であるブロック・コード(フレーズをオクターブで弾きさらにオクターブの間にそのフレーズに相応しいコードをつけて演奏する高度なピアノ奏法)を使って演奏するから実にGroovyな演奏になります。僕には出来ませんがこれができたら実にかっこいい。女の子にもてること請け合いです。(但し、音楽のよさがわかる子に限る)「コンサート・バイ・ザ・シー」というアルバムを聴くとブロック・コードでがんがんバック・ビハインドするエロール・ガーナーに出会うことができますよ。乗りに乗っていて観客にもバカ受けな様子がよくわかります。(このアルバムはライブ録音です。)。
【ブロック・コードの迫力】
ところでブロック・コードはピアノ特有の奏法で正に王者の楽器ならではといった感があります。サックスなどのように色っぽさを出す点では勝てないですがブロック・コードのような迫力のあるサウンドは正にピアノの一人舞台です。似たようなサウンドにギターのオクターブ奏法がありますが、どちらかというとまろやかなフィーリングでここまでの迫力は出ないです。それと単音で奏でられるフレーズとは違う独特のドライブ感が感じられます。「バック・ビハインド奏法」にピッタリの演奏方法だということが出来ます。
【イモと背中合わせの奏法】
さて、「バック・ビハインド奏法」を演奏する側から見るとこの奏法は「イモな演奏」と背中合わせって感じがします。簡単に遅らせると書きましたがこれを実際に弾こうとすると実に難しい。どうしてもジャストに弾こうという意識が働いてしまいタイミングがうまく取れません。思うにうまくバック・ビハインドして聴かせる為にはフレーズを弾く間各音が均等に遅弾きしないとうまく聴こえないようです。でも実際には数音ジャストに弾こうという意識が働いてフレーズ間のバランスが崩れイモな演奏になってしまうのが僕がいつも陥るパターンです。こうなると何をもたった演奏してんだよと一緒に演っているメンバから罵声を浴びそうですが多分こういう経験を沢山しないと体得できない奏法なのでしょう。諦めずに努力したいと思います。
【遅乗りで歌われるサビ】
ところで「ディア・アゲイン」です。広瀬香美さんはこの曲のサビの部分をエロール・ガーナーほどエグくはありませんが、独特の遅乗りで歌っています。恋人を待つ気持ちがぐっと増して伝わってくる気がします。皆さんはどうお感じになるでしょうか。僕は彼女がジャズを歌ったところは聴いたことがありません。しかし、この遅乗りから想像するに絶妙なスィング感を作り出せるリズム感をお持ちではないかと期待してしまいます。彼女の声はちょっと硬めなので嫌いな方もいらっしゃるかもしれませんが僕は大好き。フィーリングが合うのか彼女の作る歌も皆んな好き。今後も素敵な歌を沢山作ってほしいなと思います。今日はこれでお終い。
では、また明晩お会いしましょう。
[関連情報]
作曲:広瀬 香美
作詞:広瀬 香美