【うどんを食べていたら..】
その日は仕事で新宿のとあるビルで昼食にうどんを食べていました。今日の仕事は少し気掛かりなことがあり順調に行っている訳ではなくちょっとブルーな気分です。さて、このうどん屋、バック・ミュージックでかかっている曲がうどん屋にはちょっとそぐわない7、80年代のポップスが流れていました。別に僕はこういう曲は好きだから良いのですがお客さんによっては「もっと相応しい曲をかけてくれ!」と文句をいう客もいるんじゃないかって余計な心配をしたくなってしまいます。確かにうどんを食べながらポップスを聴くというシチュエーションは何となくミスマッチのような気がするとかくだらないことを考えているうちに昔どこかで聴いたことのある曲が流れ始めました。
【題名がなかなか出てこなかったが】
「確かにどこかで聴いたことが...」と感じて一瞬箸の動きが止まりました。「何だっけ、これ?」いやに懐かしい気持ちで一杯になります。映画で使われた曲かなあ?「Endless love」?「いや、違う。あれは確かデュエットで歌われているはず...」この曲は男性ボーカルしか聴こえてきません。そうこう考えているうちに曲がブレークして(曲のなかで全楽器がお休みして一瞬、音がなくなること)次の瞬間力強く男の声で「still」というつぶやきが聴こえました。このつぶやきで僕のシナプスが反応し曲名を思い出しました。「おお、そうだstillだ、still!」。この曲は男のつぶやいた言葉と同じ「Still」が曲名です。曲名を思い出したら一気にパアッと気分が明るくなってしまいました。アンマッチではありましたがこの曲を流してくれたうどん屋さんに感謝しなくっちゃ。何でこんなに懐かしかったかというと僕が昔弾き語りのレパートリーにしていた曲だったんですね。だからこの曲に対する思い入れの強さが他の曲とは違います。また、弾き語りで演ってみたくなってしまいました。うどん屋で「Still」を聴いてから午後はずっと頭のなかで「Still」がかかりっぱなしです。まるで壊れたジュークボックスみたいな状態になってしまいました。ところで弾き語りのレパートリーにしようと思う時ってどんな時なのかちょっと考えてみました。大抵の場合その曲がほんとに僕自身好きで自分も歌ってみたいなあと憧れを抱く曲をレパートリーにしている気がします。そういう曲を歌う時は胸がときめくんですね。別の言い方をすればこういうときめきを感じたいから歌を歌いたいと思うのかもしれません。ですから、これは勉強するつもりでと好きでもない曲をレパートリーにしようとしても結局しばらくすると歌わなくなってしまいます。やはりその曲を歌っても心がときめかないから自然とそうなる気がします。また、それでいいのだと思います。
【歌の中で囁くStill】
この曲は別れた彼女への想いが断ち切れず思い悩む男の心の内を歌った歌なので、「Still」と最後につぶやく訳ですがなかなかこういうアイデアを思いつくのは非凡な才能を感じます。誰が考えたのでしょうか?この一言で主人公の切ない気持ちが一瞬で理解できる。妙に説得力があり効果的な手法と思いませんか?若い頃、初めて聴いた時にはなんてかっちょいいんだと感心した覚えがあります。うどん屋で聴いた時も「still」とつぶやいた時同じように「かっちょいい」と感じられました。昔と同じようにね。ところでこれと似たような音楽の手法に語りというのがあります。
【語り】
歌う代わりに歌詞を語ったり劇の一場面のセリフを語ったりするのを一度は見たことがあるのではないでしょうか。書いておきながら何ですがこれはちょっと僕にははできそうにありません。何故かというとこれをうまくやるにはミュージシャンの素養というよりは俳優の素養が必要だからです。だから役になりきるというかそういうことに特別なオーラを出せる人じゃないと様になりません。僕が実際にやったら周りのお客さんから失笑を買ってしまいそうです。が、語りは無理でもこの「Still」の一言だったら、僕でもできそうな気がしました。でもこの曲を初めてステージで演った時はそういう意味でとても緊張しました。笑い声が聴こえたらどうしようとか心配でした。その時居合わせたお客さんはBeautiful Audienceだったので、ちゃんと僕の曲を聴いてくれほっと胸を撫で下ろしました。歌い終わった時は感謝の念で一杯。生の演奏をする場合聴いてくれるお客さんがいて初めてステージが成り立つものなんだなとしみじみ思ったものです。
【ピアノの伴奏が似合う曲】
ところでこの曲にはピアノの伴奏が必要不可欠な気がします。ピアノがはいらなければわさびなしで刺身を食べるようなものです。どういうところでそう思うんだよと詰め寄られるとうまく説明できません。でも不思議にピアノの伴奏じゃなきゃあと思ってしまいます。特に「Still」とつぶやく直前とかよけい強くそう感じます。
【かつてのスター】
この曲は「コモドアーズ」というグループによって作られた作品です。「コモドアーズ」といえば、かつてのディスコ・ブームに乗ってスターになったグループでしたが、ブームは過ぎ最近はとんと名前を聞きません。スターにずっと君臨し続けるのは時代の流れもあって難しいことなのでしょう。でも「Still」の一言のようなアイデアを出せるグループです。いつの日か再びヒット・チャートに顔をだすことがあったなら惜しみない拍手を送りたいと思います。
今日はこれでお終い。
では、また明晩お会いしましょう。
[関連情報]
作詞、作曲:Lionel Richie