【能天気なボサノバ】
ボサノバでも有名な曲と思うのですが「サマー・サンバ」とう別名を持つ軽快な曲です。歌詞の内容は南米の音楽らしくちょっと能天気に「誰かが私を強く抱きしめる。それってとても素敵なこと。誰かが私に恋をする。それってとても素敵なこと。~」と素敵なことをどんどん並べていきます。人によっては「能天気なことを言いやがって!」と眉をひそめる人もいるかもしれませんね。
【屈託のなさ】
でも、屈託のない陽気さが感じられて僕の場合は好ましい印象を感じるほうが大きいかな。メロディも歌に合わせたようなちょっとコミカルな感じがしてとても好きなメロディです。聴いているうちに「So nice~」と一緒に歌いたくなってしまいます。ところで、「サマー・サンバ」という割にはリズムはボサノバで演奏されることが多いのは何でだろう。まあ、南米流にいえばそんな細かいことを気にしてもしょうがないかもしれません。楽しい演奏ならリズムは何でもいいってことでしょうか。
【さわやかの素、ボサノバ】
ところでボサノバって好きですか。僕は大好き。一言でいえば、「さわやかの素」という感じがしてどのボサノバも聴くと小さな幸せに浸れます。ところで、ボサノバは比較的新しい音楽です。ブラジルのアーティスト、ジョアン・ジルベルトがギター片手に風呂場でウンウン唸って作り出した音楽だと聞いたことがあります。ボサノバの父みたいな人といっていいのではないでしょうか。Jazzとボサノバとは相性がよくジャズのミュージシャンはみんなボサノバが好き。色々な人が取り上げています。例えばジャズミュージシャンのスタン・ゲッツがジョアン・ジルベルトと共作したアルバム「Getz/Gilberto」が大ヒットしたりします。ちなみにジョアン・ジルベルトは結構頑固者だったらしく最初スタン・ゲッツと一緒にやらないとダダをこねたという話を聴いたことがあります。録音する時も反りが合わず周りにいたアントニオ・カルロス・ジョビンは苦労したらしいです。(ブラジルのピアニストでウエイブとか作曲した人です。他にも沢山の名曲を書いています。)そんな訳で裏では色々な苦労があったようですが結局レコードは完成し発売されて大ヒットしてしまいます。そんな風にして色々なミュージシャンがボサノバを取り上げて世界中に広まっていきました。そういうボサノバの広がりをさらに加速した要素の一つにアストラッド・ジルベルトという女性ボーカリストの存在があります。ちなみにこの人はジョアン・ジルベルトの奥さんだった人です。アルバムを録音する前は素人同然でしたが「Getz/Gilberto」で脚光を浴び歌手になってしまったというシンデレラ・ストーリーを生みました。
【歌のうまさの基準が壊れた】
話は変わりますが歌のうまさってどういうところで感じられると思いますか?声量がある。音程が正確。ビブラートが美しい。声に艶がある。数え上げれば色んな要素があります。ところがアストラッド・ジルベルトには今上げたような歌のうまさの要素は殆ど当てはまりません。声量は普通です。音程はどちらかというとフラット気味に歌うことが多いです。ビブラートはまったくといっていいほど徹底的にかけない歌い方をします。アストラッド・ジルベルトがもしジャズやポップスでボーカリストを目指していたら今のように有名にはなれなかったかもしれません。が、このノンビブラートで歌うそっけない歌い方がボサノバのリズムに乗ると独特の光を放ちます。とても組み合わせとしてしっくりくるのです。今までの歌に対する僕の価値観みたいなものがガラガラと崩れ去ってしまった気がしました。僕も初めて聴いた時はそっけない変わった歌い方をするんだなあという印象でしたが慣れてくるとこれじゃなきゃあダメと感じるくらいになってきます。不思議な魅力をもっているんですね。アストラッド・ジルベルト以外のボーカリストでは例えばボサノバのミューズと呼ばれているナラ・レオンとかがいますがここまで徹底してノンビブラートでは歌っていません。
【そっけない歌い方は天然?】
アストラッド・ジルベルトはどうやってノンビブラートでそっけない歌い方をするとボサノバにぴったりの感覚を得られると察したのでしょうか?意外に天然で普通に歌ったらノンビブラートでジョアンが奏でるギターとの相性がピタシカンカンだったということなのだけかもしれません。音楽は色々な音を組み合わせて作られます。普通に考えると単独で良いなと思う音をどんどん重ねていけばより良い音になるような気がしますがそれではうまく行かないこともあるってところが音楽の面白いところです。単独でパッとしない音でも一緒に他の音と組み合わせると初めて良さを発揮する場合もあるんです。アストラッドの歌みたいに....
【かつての夫婦が歩んだ別々の人生】
そうだとしたら正に奇跡の組み合わせです。クラシックの発声でポップスの甘い愛を歌っても全然よくないように其々の音楽に適した歌い方というものがあるのだなあと思うわけです。アストラッド・ジルベルトは有名になった後、ジョアン・ジルベルトと別れてしまいます。ジョアンは心に傷を負いその後数年の間失踪してしまったそうです。その後カム・バックして音楽スタイルは何ら変わることなく音楽活動を再開します。アストラッド・ジルベルトは結局アメリカで歌手として成功しジョアン・ジルベルトはブラジルに戻り頑なに自分の音楽スタイルを守り音楽を続けました。ジョアンはポルトガル語以外で歌うことはなく自国語で歌うことにこだわったといいます。そのおかげで英語が出来たアストラッドがボサノバを歌うきっかけを得てアルバムに参加することになったらしいです。面白いものです。ところでそれぞれの道を選択したアストラッド/ジョアンの人生、考えさせられるものがあります。皆さんどちらが幸せと思いますか。神様の気まぐれでどちらかの人生を歩ませてやるといわれたらどっちを取りますか?僕は悩んでしまうなあ。今日はこれでお終い。
では、また明晩お会いしましょう。
[関連情報]
作曲:Marco Valle,Paul Sergio Valle
作詞:Norman Gimbel