【モンクが作った文句なしの名曲】
この曲はジャズのスタンダードナンバーでジャズ・ピアニストのセロニアス・モンクが作ったバラードです。この曲を演奏しているもので一番のお気に入りはなんといってもむせび泣くミュート・トランペットで奏でるマイルス・デイビスの渋い演奏で、いつも思わず聴き入ってしまいます。バックの演奏も緊張感がみなぎる秀逸な演奏と感じます。
【モンクの独特なピアノ・スタイル】
かつてこの演奏を聴いた僕のおばあちゃんが「なんや、キャバレーでかかるような音楽を聴くんやのう」と感想をもらしたのには参ってしまいました。僕としては「なかなか渋い音楽を聴いているやないか」ぐらい言って欲しかったのですが、ジャズとは無縁なのでそれぐらいの感覚でしかとらえられなかったんだろうなあと思います。このマイルスの演奏は、リズムセクションの仕掛けといい、アドリブといい申し分ない仕上がりだと聴く度に感じます。ところで作曲者のセロニアス・モンクは特異なピアノ・スタイルで有名で、指をピンと伸ばした弾き方といい、アドリブで奏でるフレージングといいかなりユニークです。小さい頃、NHKで演奏を見る機会に恵まれましたがそのユニークな風貌も手伝って変わったピアノを弾く人というカテゴリに分類されてしまい僕の目指す音楽とは異質なものという風に考えていました。なので、大学にはいりジャズに親しむようになりこの名曲の作曲者であることを知ったときにはどうしても違和感を感じずにはおれませんでした。彼が作曲した曲で「ストレート・ノー・チェイサー」というブルースの曲がありますがこの曲はメロディもリズムもユニークでセロニアス・モンクが作曲したことに充分納得できるのですが....でも、先入観は時には真実を正しく伝えないことはよくあることかもしれません。モンクは音楽のスタイルがユニークなので色々な意味で誤解されているミュージシャンかもしれません。「あいつはああいう風にしか弾けないのさ」とかね。モンクはスタンダード・ジャズはまともに弾けないと思っている人がいたら一度「モンク・ソロ」というアルバムを聴いてほしいです。正直いうと僕もモンクはスタンダード・ジャズは弾けないんだろうなと思っていました、このアルバムを聴くまでは。このアルバムを聴くと少々荒っぽい感じですがスタンダード・ジャズをノーマルなスタイルで演奏するモンクに出会えますよ。
【ピンと来るボーカルに出会えなかった曲】
ところでこの曲のキーは何だと思いますか?E♭マイナーで♭が5つもつくのでピアニストが弾くにはちょっと辛い曲ということがいえます。しかも、曲の中で転調しまくるのでもっと辛い。ひどいところは2拍ずつ半音でキーが変わっていきます。モンクは凄い作曲家だと感心してしまいます。この曲は名曲なのでボーカリストも沢山取り上げています。ただ、ボーカルで歌ったものでは今までにピンと来た演奏に巡り会っていません。それじゃあ、コーラスはどうでしょう。僕の大好きな「マンハッタン・トランスファ」が取り上げていますが、どうしたことかこれもピンと来ませんでした。かなり意欲的な内容ではありますが僕の好みではありません。もっと素直なラウンド・アバウト・ミッドナイトを聴きたいと思ってしまう。誰かボーカルで素敵なラウンド・アバウト・ミッドナイトをご存知の方は教えてくれたら嬉しい。
【ニー・ゴー】
コードの話をもう一つ。ミュージシャンがコードの話をする時によく使う言葉が「ニー・ゴー」。2度のコードと5度のコードという意味です。キーはハ長調(C)だと「ニー・ゴー」は、Dm7 G7のコード進行を意味します。ドから数えて2番目はレ(D)なのでDm7、ドから数えて5番目はソ(G)なのでG7になります。(m7や7がつくのはどういう理屈かはまた別の機会にお話しますので、今回はそうなるものだと思って聴いてください。)この「ニー・ゴー」のコード進行は、普通の曲に一番沢山出てくるコード進行です。この曲にも沢山出てきます。この曲の非凡なところは、この「ニー・ゴー」が半音ずつ下がって登場するところです。半音ずつ下がっていくのだからさぞや変なメロディになるんじゃないかと思えますが、ところがどっこい。これが、魅力的な素晴らしいメロディなのでびっくりしてしまいます。僕の作る曲も美しいメロディにフィットした変態コードのオンパレードにして、モンクに一歩近づきたいものです。今日は、これで御終い。
では、また明晩お会いしましょう。
[関連情報]
作曲:セロニアス・モンク
作詩:バーニー・ハニゲン