【完璧なアカペラに絶句】
美しいメロディを持つジャズのバラードですが、この曲の演奏で一番のお気に入りは?と聞かれたら僕は迷わずマンハッタン・トランスファがアカペラで歌う「ナイチンゲール・サング・イン・バークリー・スクウェア」と答えると思います。マンハッタン・トランスファは、僕の大好きな4人組のコーラス・グループです。途中転調して音が取りにくいはずのこの曲を淡々と歌いきってしまいます。好きなグループなのでライブにも行きましたが、お気に入りのこの曲も演奏されました。レコードと同じように一糸乱れぬコーラス・ワークを目の当たりにして絶句してしまいました。
【乱れないのが不思議でしょうがない】
1コーラスとちょっとを歌うのですが、1箇所ぐらいハーモニーが崩れてしまうところがあってもよさそうなものですがそれがありません。このようにライブでも安定したハーモニーを維持できる4人の歌の実力たるや底知れぬものを感じてしまいます。この曲はE♭ではじまり、サビがGに転調しますが、よくもまあちゃんとコーラスできるもんだと感心してしまいます。それもアカペラで....
また、アカペラのアレンジも実によく考えられていて飽きることがありません。コーラス・ヴォイシングは、「シンガーズ・アンリミテッド」のメンバーであるジーン・ピュアリングによるものだそうです。んーっ、会心の一作と呼ぶにふさわしい大好きなアレンジの1つですね。
【コーラスに憧れて】
若い頃は、相当この曲に入れ込みとうとうコーラス・ボイシングのコピーまでしはじめました。そうなると今度は実際に自分で歌いたくなってくるものです。当時は貧乏サラリーマンゆえ、高価な録音機材を買えるはずもありません。でもやってみたい気持ちは高まるばかりです。考えた末、カセット・テープに4回重ね録音すればできるのではないかと思いついてやってみることにしました。マンハッタン・トランスファのこの曲には9小節のイントロが付いています。メインのメロディは4拍子なのにこのイントロはなぜか3拍子です。こう書くと随分へんちくりんなイントロと思われるかもしれませんが、メインのメロディにJustFitしたなかなか素敵なイントロなんですよ。3拍子と気が付いたのは実はコピーをしはじめてようやく気が付いたくらいです。それくらい自然に聴こえ違和感がありません。この9小節をコピーしてピアノで弾いてみるとあたり前ですがマンハッタン・トランスファの演奏とそっくり同じ響きがします。えーと、聴いたものとそっくりに弾けるというのは結構感動します。僕はあまり耳が良くないので4声のイントロの9小節をコピーするのに何日もかかります。一発ではそっくりの響きにはならずこうかなとか色々試行錯誤しながらコピーしていきます。そうやって時間をかけて出来上がった譜面をピアノで弾いてほんとに同じ響きに聴こえるのを実際に体験するととても嬉しいわけです。
【一旦は諦めてしまった夢】
そういう嬉しさも手伝って4声分のコーラスパートを空で歌えるように頑張って練習して、いざ録音です。低い声部から順番に入れていきます。ところが、3声目を入れるあたりからちょっと聴きずずらい感じになってきて、4声目を入れた後聴くとコーラスがかすかにしか聴こえません。後は全体に「サーッ」というホワイト・ノイズばかりが聴こえます。こうなってしまっては、当時の僕はなすすべがありませんでした。結局僕のもくろみは、失敗に終わりました。苦労して失敗するとその反動はよけい大きくてもう二度と同じことをする気になりませんでした。こういうことをやろうと思ったら立派なスタジオ、立派な録音機材がなければ叶わぬ夢なんだなあとあきらめてしまいました。
【20年を経て実現した夢】
ところが、あきらめて20年以上経った或る日、女神が僕に微笑みます。PCテクノロジーの向上であのにっくきホワイト・ノイズなしでスタジオ並みの録音ができるということをたまたま覗いた音楽雑誌で知りました。一度はあきらめましたが、できる方法が見つかったのですからいても経ってもいられずPCで録音できる安価な機材を買い揃え早速試してみることにしました。それからというもの休眠がちだった僕の音楽活動はフル回転。休みの日は、朝から晩まで音楽三昧の日々を送り始め、現在に至ります。きっと女神が音楽好きの中年男がしょぼくれているのを見兼ねてくれたプレゼントだったんじゃないかな?なんていう風に思っています。どうか、この楽しい音楽生活が末永く続けられますように....
では、また明晩お会いしましょう。
[関連情報]
作曲:エリック・マシューズ
作詩:マニング・シャーウィン
アルバム:Mecca for Modern(The Manhattan Transfer)