お気に入りの音楽　千夜一夜

　　第15夜　会いたい

【曲を探す長い旅の始まり】
良い曲というものは、ちょっと聴いただけでも心に深く刻まれるもの．．．なーんて、どうせ小説の中の話だろう、現実にあるわけないじゃんと、タカをくくっている貴方。ほんとにそんな嘘のような話があるんです。今日はそのお話をしたいと思います。実際に僕が経験した話です。

【忘れられなかったメロディの断片】
　その曲はテレビで見たわけでもなく、ラジオで聴いたわけでもなくそういう記憶は殆どありませんでしたが、僕の頭の中で少しずつですがメロディの断片が流れるようになっていました。ある日、この曲っていったいなんて曲だろうと数小節のメロディを気にしている自分に気がつきました。

【頭の中で繰り返されるメロディ】
　一旦こうなるともういけません。毎日のようにメロディが頭の中で鳴り響きます。しかも、数小節で終わってしまうので続きはどんな風だろうと気になって仕方がありません。いまから随分前の話なのですが、どうにかこの曲のことをもっと知る方法はないかと考えました。音楽が流れる身近なメディアといえばテレビですが、その頃はあまりテレビも見ることはなかったので僕がテレビを見ている時にその歌に遭遇するチャンスは０に等しいということになります。ラジオもあまり聴かないし．．．．うまく調べる術もなく時間はどんどん過ぎていきました。このままでは、永久にこの曲の題名を知ることは出来ません。そう思うと妙にくやしくて何か方法はないものかと考えを巡らしたのですが１つ思いついたことがありました。

【紅白歌合戦で勝負】
　「一度もまともに聴いたことのないのにメロディが心に刻まれたのだから、きっと世の中でヒットしている曲に違いない。であれば、この曲は紅白歌合戦で必ず歌われるんじゃないか？」。そう思いつきました。でも、その曲がほんとに歌われるかどうかはわかりません。他に良い手は見つけられず、紅白歌合戦に全てを賭けることにしました。大晦日の当日は朝からそわそわしっぱなし。朝起きると玄関に直行し、新聞のテレビ欄をくいいるように見つめます。紅白の出場順に歌手の名前と曲の題名が書いてありました。「おお、どの曲かわかるかもしれない」と全歌手と曲名を何度も舐めるようにみたのですが僕の手がかりはたった数小節のメロディのみ．．．いくら眺めてもどれがその曲かどうかわかりませんでした。もう、頭の中に残っているメロディとテレビから流れてくるメロディを比べるしか方法はありません。

【とうとう辿り着いた旅の終着点】
　さて、夜になり年越しそばを食べていると（私の家では、大晦日の夜のメニューは大抵年越しそばが定番。とても、おいしい。）、運命の（この時はほんとうにそう思ったんですよ。笑））紅白歌合戦が始まりました。いつもは、紅白歌合戦なんて別に大して興味を示さない僕が食い入るようにテレビの画面を見ている。そんな僕を見て、細君は怪訝そうな面持ち．．．１時間ぐらい過ぎたでしょうか曲がかかった瞬間、僕の体に電流がビビッと走りました。おお、この曲だあ！心配することはない、すぐわかりました。うんうん、「会いたい」って曲なのか、沢田知可子さんという人が歌ってるんだ。僕の記憶している数小節の後のメロディが流れてきます。ああ、こういうメロディだったんだあ．．．．と思えば半年以上待ち望んだ至福の時を過ごします。なにしろ気になってからずっとどんななんだろうと想像して知りたくてしょうがなかったメロディをようやく聴くことができたんですから。という訳で、僕の題名探しの物語はめでたくハッピーエンドを迎えました。

【この曲を久しぶりに聴いて】
　ところで、この曲を歌っている沢田知可子さんの歌い方はとても好きです。とてもさりげなくそれがかえってジンとくるという感じですね。この前たまたまＴＶを見ていたら彼女が出ていてこの歌を歌ってました。思い入れのある曲なので凄く懐かしかった。それで、お気に入りの曲なんだからと、この１６話を書きはじめました。この曲の歌詞は女性が歌うように作られているので男が歌うにはちょっと変かもしれません。曲自身はすごく好きなので歌がダメならピアノで弾いてみようと練習して、ピアノのレパートリーになりました。一体どんな曲なんだろうと探していた頃の自分を思い出しながら弾くと、その頃のことを色々思い出すことができるので僕にしか味わえない小さな幸せを感じることができます。今日は、これでお終い。
　では、また明晩お会いしましょう。

[関連情報]
作詞：沢ちひろ
作曲：財津和夫

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