お気に入りの音楽千夜一夜 マ・シュケ・ナダ お気に入りの音楽千夜一夜 マ・シュケ・ナダ  お気に入りの音楽千夜一夜 マ・シュケ・ナダ

お気に入りの音楽千夜一夜 マ・シュケ・ナダお気に入りの音楽 千夜一夜



  第13夜 マ・シュケ・ナダ(Mais Que Nada)

【貴重だったラテンのレコード】
お気に入りの音楽千夜一夜 マ・シュケ・ナダこの曲は、ブラジル’66というグループのラテン・ナンバー。陽気なリズムとどことなく哀愁の漂うまさにラテンの魅力満載と感じられる名曲だと思います。小さい頃より聴いてました。なぜかって?私の親は、音楽好き。でもレコード(CD世代の方のために、アナログ盤のこと)ジャズやラテンといったものよりは、日本の歌謡曲のほうが多かった。その中に何故か、ブラジル’66のレコードがありました。ラテンの陽気なリズムは肌にあうようですぐにこのレコードの虜になりました。前世はラテン人だったのかな。そんなわけないか。


【日曜日の朝聴く習慣】
 この曲からイメージされるものといえば、「爽やかさ」ですね。なので、日曜日の朝起きるとまず、このレコードをかけるのです。そうすると元気に1日が始められるような気がしていつもそうしていました。ピアノを弾いているのは、「セルジオ・メンデス」。とてもファンキーというかポップなピアノを弾きます。特に終盤の「オパーッ、オパーッ、オパーッ、」という歌のバックで、ちょっとbrokenアドリブを披露します。brokenと表現しているのは壊れるか壊れないかギリギリぐらいのところで演奏しているように感じるのでこう表現しました。ファンキーで壊れ具合が私の好みにピッタリという感じです。全体を通してリズミカルでとても好きな演奏です。


【アドリブに憧れて】
 セルジオ・メンデスが弾くようなコード進行を参考にして即興で演奏することをアドリブするといいます。その頃は、ピアノを習っていたので弾くのはクラシックの初級の曲でしたから譜面どおり弾くのが通常です。そういうもんだと思っているところに、あの自由自在に繰り出されるセルジオ・メンデスのピアノのフレーズを聴いてどうやったらあんな風に弾けるようになるんだろうと素朴な憧れを抱きました。この頃はそのフレーズをコピーして演奏するなんて器用なことはできませんでしたがいつか僕もこんな風に弾いてみたいという想いは強く残りました。暫く忘れていましたが月日は流れ、大学入学した時どんなサークルにはいろうかなあと色々考えていた時のことです。或る日、見学に行ったビッグ・バンドの演奏を聴いているうちにパッと幼い頃の記憶が蘇りました。そう、ビッグ・バンドの演奏の中で奏でられる短いピアノ・ソロを聴いて「あっ、セルジオ・メンデスみたいに弾いてる」ってね。このサークルで頑張ればひょっとしたらアドリブが弾けるようになるかもしれない。そういう期待感を抱いてこのビッグ・バンドサークルに入ることに決めました。


【アドリブを弾けるようになる音楽環境】
 僕のはいったサークルは、結構本格的でメンバーの中からうまい人が選抜されてレギュラー・バンドが構成されます。このレギュラー・バンド以外にジュニア・バンドも編成されて1年生の僕みたいな人はジュニア・バンドで練習します。ジュニア・バンドで腕を磨いてうまくなる人はレギュラー・メンバーに選ばれていきます。ビッグ・バンドとして演奏する時はピアノ・パートの譜面がちゃんとあって普通はその譜面に沿って演奏します。それだけでは、アドリブが弾けるようにはなりません。ところでレギュラー・バンドもジュニア・バンド全体の練習時間は決まっていてそれ以外は部室は誰が使ってもよいことになっていました。気の合ったメンバーが集って少人数でジャズを演奏するグループが自然にできて部室の空いている時間を利用してよく練習しました。アドリブを習得するのには絶好の機会です。ピアノの人がたまたま都合が悪かったりすると「ちょっと来い」と言われて先輩のグループに混じって演奏する機会に恵まれることもありました。とにかくこのサークルにはいったことで僕としては初めてアドリブを弾けるようになる環境を手に入れることができました。


【アドリブはフレーズの組み合わせ】
 アドリブを弾くと聞くと即興でどんどん新しいフレーズを弾くように見えますが実際は自分が繰り出せるフレーズの素を持っていてそれを上手く組み合わせて繋いでいくといったほうが正しいと思います。フレーズの素が多ければ多いほど組み合わせ方のバリエーションが多ければ多いほど豊かなアドリブを奏でられるわけです。フレーズの素材は、先代のジャズ・プレーヤーたちが培った星の数ほどのフレーズがあります。その中から自分の気に入ったフレーズを見つけては自分で弾いてみてうまく組み合わせられるよう何回も弾いて弾きこなせるようにしていきます。器用な人は1,2年でそれらしく演奏できるようになる人もいるのですが普通はそう簡単には行きません。そういう経験を積みながら自由に弾けるフレーズが増えてくるに連れ、段々まともな演奏に進化していきます。僕も1つのフレーズを弾きこなせるようにするには時間がかかったほうだと思います。例えば、1つのフレーズをキーがFでうまく弾けても他の良く使うB♭とかE♭でも弾けないと弾きこなせるようになったといえません。それから、他のフレーズと組み合わせて使う場合、そのフレーズが自然に頭に浮かんでくるようにならないとここぞという時にパッとは弾けるものではありません。タイミングをはずして超イモなフレーズを弾いてしまったり、リズムが外れてしまったりしてうまく弾けないものです。音楽は一定の速度で曲が進行するので曲は待ってくれません。ちょっと思い出すまで待ってが通用しないのです。ですから、ああここでこのフレーズが弾きたかったのに!と悔しい想いをしたことはもう山ほど経験しました。今現在でもアドリブをマスターしたとはとても言いがたい状況ですが僕のペースで少しずつでいいから続けていければな、と思っています。


【ハーモニーしないデュオ】
 えーと、「マ・シュ・ケ・ナダ」に話を戻します。もう1つ気に入っているのが、2人の女性ボーカルです。2人いるのだからコーラスしているかというとそうではありません。殆どユニゾンで歌っています。これが、この曲になんかよくマッチしているように感じるのです。ユニゾンがあまりすきでない私にはちょっと新鮮に聴こえました。ただ、終盤にはいると1箇所だけコーラスするところがあります。さきほどの「オパーッ、オパーッ、オパーッ、」という部分がそうです。それも5度でハモります。5度とは2つの音程が例えば、「ド」と「ソ」の間離れていることをいいます。「レ」と「ラ」も同じく5度の音程です。普通2声でハモる時は、3度か6度でハモるのが普通。最初聴いたときは「エッ、なんじゃこれ」という印象だったのですが、聴いているうちに逆にこの部分が気に入ってきました。


【黒鍵と白鍵の配列】
 ちなみに、3度というのは、「ド」と「ミ」の間離れている音程です。では、問題! 3度の音程で片方の低い音が「レ」の場合、高い音は何になるでしょう?「ファ」ですか?「ブッブーッ」。答えは、「ファ#」です。なぜ、#がついたりつかなかったりするかというと鍵盤の配列が不規則だからです。なんでそんな変な配列にしたんだと怒こらないで下さい。これには、ちゃんとした理由があるんです。貴方の言うとおり鍵盤を白鍵、黒鍵の順に並べたピアノを作ったとしましょう。貴方の目の前にそのピアノがあると想像してください。じゃあ鍵盤を見て「ド」はどこにあるか指し示してください。わからなくなったでしょ。規則正しいというのはよいことの見本みたいに考えがちですが逆に規則正しくしちゃあいけないこともあるんです。不規則な配列にしているからこそオクターブの塊がわかる訳で今の鍵盤を考案した人の英知みたいなものを感じてしまいます。今日はこれでおしまい。  では、また明晩お会いしましょう。


[関連情報]
作詞:Jorge Ben
作曲:Jorge Ben


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