【他に類を見ない自然な5拍子】
5拍子なのに変拍子と感じさせない魅力的なメロディを持つジャズの名曲。小さい頃聴いてそのメロディは僕の心にしっかりと刻まれました。変拍子は面白いとは思うもののあまり好きではありません。メロディとか聴いてもどうしても無理やり作ったという印象が拭い切れないものが多いと感じるからです。ですから、この「テイク・ファイブ」は別格です。
【曲の題名の2通りの由来】
ところで「テイク・ファイブ」という曲の題名を聞いてどう感じますか?僕の場合、大好きな曲だという強い思い入れがあるのでもっとムードのある題名にすればいいのにと思ってしまいます。何か取って付けたようなあっさりした題名だなって....おぼろげな記憶ですが、5回目に録ったテイクなので「テイク・ファイブ」とレコードのジャケットの片隅に書いてあった気がします。それを見てちょっとがっかりしたような.....ところで、この「テイク・ファイブ」の曲名のもうちょっと気の効いた別の由来があることを最近知りました。この由来は銀座パナシェのオーナー マダム・アンティック・サチさんが教えてくれました。要約するとこんな内容です。多忙な毎日を送る男に想いを寄せる女がいた。或る日、女は自分の思いを告白しようと男にこう言った。「ねえ、私に5分だけ時間を頂戴。貴方にどうしても伝えたいことがあるの」。だから、「テイク・ファイブ」。5回目に録ったテイクよりはずっと気が利いていると思いませんか?「テイク・ファイブ」のオリジナルはインストメンタルで歌は入っていません。歌詞は多分後からつけられたものと推測しますが、このあたりから作られた由来という気もしますが、どれがほんとかよくわかりません。こう考えると曲の題名というものはちゃんと考えてつけるに越したことはないという気がしてきます。曲を聴いて題名を見た時に、イメージがパッと膨らむようなそんな曲想にピッタリの題名をつけられるようにしたいものです。僕も自分のオリジナルの曲を作ると、題名を何にしようか色々考えるほうです。良い題名を思い付くようにいつも曲を聴いて思い浮かぶ小さな物語を作ってみることにしています。そうすると、よりいい題名が思いつくのではないかという気がするからです。いい考えでしょ。
【小さい頃聴いた記憶】
ところで、僕が初めてこの曲を聴いたのは日曜日のテレビ番組で「素晴らしき世界旅行」という番組の「第4氷河期」というアニメの中だったと記憶しています。このアニメは小さい頃見たにもかかわらず強く印象に残っています。子供心は正直です。つまらないものは心に残りません。とても見ごたえがあったという気がします。「テイク・ファイブ」という曲の題名は場末のジャズ・クラブでバンドが演奏する設定でこの曲が流れた時、右隅に題名が表示されていて知った覚えがあります。ジャズは馴染みがなく曲名だけでも知り得たのはラッキーでした。人類の不幸を予測するアニメ、そこで奏でられる退廃的なジャズ。この曲が印象に残ったのはそういうイメージも微妙に左右したかもしれません。この曲を聴くと「退廃的」というイメージがピッタリきます。その退廃的雰囲気を醸しだすのに欠かせぬものがポ-ル・デスモンドのアルト・サックスの音色です。かすれたような微妙な響きはこの人ならではのプレイと感じます。かぼそいとか文句をいう人もいるみたいですが僕は好きだな。ハスキーな女性ボーカルと双璧をなす色っぽさですね。何を隠そう「テイク・ファイブ」を作曲したのはこのポール・デスモンドなんです。うーん、思わず尊敬してしまいます。
【ミュージシャンの交流】
もう一人忘れてはならないプレーヤーがピアノのデイブ・ブルーベックです。この人は、グループ以外の人とはあまり演奏をしない人だったようです。普通ジャズ・プレイヤーは色んな人と演奏することを好みます。背景にジャズ・スタンダード・ナンバーという偉大なジャズの遺産があるからです。話を判りやすくする為にロックバンドの場合と比較して考えてみることにします。ロックバンドは普通グループを組み、自分達で作ったオリジナル曲を作って活動します。他の人がそのバンドのところに遊びにいったとします。じゃあ、一緒に演奏しようという場合そのバンドのオリジナル曲を演奏するしかありません。遊びに行った人がこのバンドのファンでそのバンドの曲を演奏したことがあるなら話は別ですが殆どの場合、短時間でうまく演奏するのは困難です。何回か練習しないと人前で披露できるようにはならないでしょう。ロック屋さんはあまり譜面とか重視しないし、ブルースとかなら別ですが...
【ジャズはセッションするのに最適な音楽】
ところがジャズの場合は事情が随分変わります。ギターの人がピアノ・トリオが出演しているジャズ・クラブに遊びに行ったとします。じゃあ一緒にやろうという話になりギターの人はいきなりステージに上がり、ピアノ・トリオのメンバーとぶっつけ本番で演奏をしようとします。はじめる前に「バット・ナット・フォー・ミー知ってる?」、「うん」、「キーは、E♭でテンポはこれくらいで...ワン、トゥー、スリー、フォー」と、リーダがカウントを出し、おもむろに演奏が始まります。「バット・ナット・フォー・ミー」はジャズのスタンダード・ナンバーの1つです。ジャズをある程度やった人なら大抵は演奏したことのある有名な曲です。キーも大抵の場合はE♭で演奏する暗黙の了解があります。ですから、上に書いたように数秒の打ち合わせを経てすぐ演奏がはじめられるという訳です。ジャズ・スタンダード・ナンバーという音楽の遺産があるからこそ成せる技という気がします。とはいってもまあ、こうスムーズに演奏するためには、日頃からジャズのスタンダードに親しみ、よく演奏される曲は譜面を見なくてもコードが頭の中に浮かんでくるようになるぐらいジャズの素養を積まないと成り立たない話ではあるのですが、先に書いたロックバンドの場合と比べると雲泥の差があります。今日はこの辺でおしまい。
では、また明晩お会いしましょう。
[関連情報]
作詞:イオラ・ブルーベック、デイブ・ブルーベック
作曲:ポール・デスモンド