【穴があったら入りたい思い出】
大橋巨泉の有名な深夜テレビ番組で「11pm」というのがありました。小さい頃は深夜番組をみることなく過ごしていましたが、クラスには必ずマセガキがいて自慢気に「俺、昨日11pmを見たよ。凄かったぜ!」と吹聴するので真面目な(?)僕も気になってしょうがありません。知らん振りをしていますが、耳はダンボみたいになってそいつの話を一言漏らさず聞こうという気になってしまう。うーん、小学生の頃の思い出を思い出す度に思わず穴があったらはいりたい気分になってしまいます。
【秘密の扉を開けるように】
小さい頃ってのは好奇心の塊みたいなところがあるので気になるといったいどんな番組なんだろうとあれこれあらぬ想像をして期待に胸が膨らんでいきます。深夜眠い目をこすりながら親には内緒でテレビのボリュームを落としてこっそり見ることにしました。あまり期待しすぎると期待通りでないことはよくあること。結局、「なんだ、たいしたことないじゃん。」と肩透かしを食らったような印象でした。親から別に「見ちゃダメ」と言われたわけではないのですが、この手の番組をみるのにやっぱりこっそり見ようと思ってしまいます。誰にも言わないで秘密にしていることってありますか?僕は結構あるような気がします。とはいっても悪いことを一杯してるわけではありません。別に必要以上に自分のことをさらけ出す必要はないって感覚かな。隠していると言うから聞こえが悪いのであって同じことのような気がします。詭弁かなあ?
【スキャットが奏でる不思議なメロディ】
ところで、「11pmのテーマ」です。有名なテレビ番組だったので一度は聴いたことがあるのではないでしょうか。「ッシャダバ・ダバダバ・ダバダバ・ッティー・シャバダバ・ダッダ」てな調子で女性コーラスグループがスキャットする不思議なメロディ。バックは確かピアノ・トリオでシンプルな楽器構成。リズムはちょっと早めの4ビート。特にドラムのブラシ・ワークがいかしてた。小さい頃なのでジャズにはまだ馴染みがなかったのですがリズミックな今まで聴いたことのない音楽に心奪われてしまいました。当時ピアノが奏でる複雑なコードが醸し出す怪しい雰囲気にも心惹かれるものがあり「僕もあんな風にピアノが弾きたい!大人の音楽って感じがする!」と真剣思いました。が、そこは素人の悲しさ。コードの知識は殆どなく耳もいいほうではないのでコピーして再現することはできず小さな悔しさを残して長い間この曲のことは忘れてしまいました。それから、20数年後社会人となり、仕事に明け暮れる毎日を過ごしていた或る日、たまたま点けたテレビから懐かしいあのメロディが流れてきます。小さい頃心奪われた記憶が蘇ってきます。今、聴いてもなかなか魅力的なメロディです。小さい頃聴いた時から比べると音楽の知識も経験も随分豊富になっているので頑張ればコピーできるのではないかという気になってきて、いても立ってもいられなくなってきました。早速次の日にテレビに流れる11pmのテーマをカセットに録音してメロディをコピーしてみることにしました。割と簡単にコピーできたので自分でも「シャダバ・ダバダバ」と歌ってみます。「おお、ジャジーだあ。大人の雰囲気だ」とさらにテンションが上がっていきます。欲が出てきてこの曲のコード進行をコピーしてみようと試みました。この曲は注意して聴くと最初の部分はブルースのコード進行を使っていることに気がつきました。
【ブルースのコード進行】
ブルースというのは、ロックやジャズでの基本ともいうべきコード進行で世の中には星の数ほどの作品があります。音楽のジャンルとして「ブルース」というジャンルがあるほどです。ブルースのコード進行をキーをGで書くと、
| G 7 | G 7 | G 7 | G 7 |
| C 7 | C 7 | G 7 | E 7 |
| D 7 | C 7 | G 7 | G 7 |
(A-7) (D 7)
となります。()内はジャズの場合のコード進行を示します。この12小節を繰り返して曲が構成されます。
【ブルースのコード進行は独特】
ブルースのコード進行は考えてみると独特なコード進行です。普通キーがGならGmaj7を使うのが一般的です。が、7thが♭してG 7を使います。もう1つ特徴的なのが2段目のC 7。C7の7thも♭しています。Cの♭7thは、Gでいうとちょうど短3度にあたりますが、これをブルー・ノートと呼んでいます。ブルースを特徴付ける音と言われています。ところでブルースの主役の楽器というとなんと言ってもギターですよね。むせび泣くブルース・ギターのフレーズは、このブルー・ノートを多用して作られているわけです。クラシックにはない独特の文化という気がします。11pmのテーマもブルー・ノートのオンパレードです。それにジャズ特有のフレーズが加わり実に僕好みのメロディに仕上がっています。結局、ブルースのコード進行をもとに作られたことはわかったもののこの曲のコード進行は全部解明できませんでした。社会人になってこのメロディに出会ってからさらに20年以上の歳月が流れ、今このエッセイを書いています。再度挑戦したらこの曲のコードを解明できるかも?
では、また明晩お会いしましょう。
[関連情報]
作曲:三保敬太郎